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【呪術廻戦/五条悟R18】魔女は花冠を抱いて眠る

第16章 「心のままに、花が咲くとき」


(……私、そのもの……?)


あのとき感じた痛みや、少女の震える手、
崩れそうになる意識のなかでただ必死に“何か”を願った、自分の感情。
それは本当に、きれいと呼べるようなものだったのだろうか。


ゆっくりと息を吸って、それでもちゃんと伝えたくて私は口を開いた。

 

「震えて、怯えてた……あの女の子は――」

 

胸の奥がきゅっと締めつけられる。

 

「……私でもあったんです」

 

言いながら、自分の手を見つめる。
ほんの少しだけ、指先が震えている。

 

「亡くなった両親をただ待ってて……どこにも行けなくて……怖くて泣いてた私」

 

唇をきゅっと結んで、それでも続ける。

 

「そして、私に手を伸ばした避難所の男の子でもあって……」

 

言葉にしながら、少しだけ笑ってしまう。
涙が出そうになるのを、ごまかすみたいに。

 

「だから……私、ただ……あのとき、できなかったことをしただけなんです」

 

先生は何も言わずに、私の言葉をすべて受け止めるように、静かに頷いた。



「……だから、あったかいとかきれいだなんて……」

「そんなふうに言ってもらえるようなことじゃ、ないんです。あれは……誰かのため、っていうより……たぶん、自分のためで」

 

ぎゅっと、手を握りしめる。
そこで、先生がふっと笑った。

 

「……それって悪いことなの?」

「え?」

 

思わず顔を上げると、先生はまっすぐに私を見ていた。
その蒼い瞳が心の奥まで見透かしてくるみたいで、息をのむ。

 

「はその時、ずっと苦しんでたその場所から……やっと、一歩踏み出せたんでしょ?」

 

穏やかで、けれど確かな声。

 

「たとえ、それが“自分のため”だったとしても――
その一歩が相手に届いたから送ることができた」


(……私の、一歩が)

 

胸の奥に、そっと何かが灯る。
けれど私はそっと視線を落とし、小さく首を傾げた。

 

「……それでも、先生やみんなみたいに……他人のために動ける呪術師とは違うと思うんです」

 

それはずっと心の奥にあった、私の小さな引け目。
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