第16章 「心のままに、花が咲くとき」
(……私、そのもの……?)
あのとき感じた痛みや、少女の震える手、
崩れそうになる意識のなかでただ必死に“何か”を願った、自分の感情。
それは本当に、きれいと呼べるようなものだったのだろうか。
ゆっくりと息を吸って、それでもちゃんと伝えたくて私は口を開いた。
「震えて、怯えてた……あの女の子は――」
胸の奥がきゅっと締めつけられる。
「……私でもあったんです」
言いながら、自分の手を見つめる。
ほんの少しだけ、指先が震えている。
「亡くなった両親をただ待ってて……どこにも行けなくて……怖くて泣いてた私」
唇をきゅっと結んで、それでも続ける。
「そして、私に手を伸ばした避難所の男の子でもあって……」
言葉にしながら、少しだけ笑ってしまう。
涙が出そうになるのを、ごまかすみたいに。
「だから……私、ただ……あのとき、できなかったことをしただけなんです」
先生は何も言わずに、私の言葉をすべて受け止めるように、静かに頷いた。
「……だから、あったかいとかきれいだなんて……」
「そんなふうに言ってもらえるようなことじゃ、ないんです。あれは……誰かのため、っていうより……たぶん、自分のためで」
ぎゅっと、手を握りしめる。
そこで、先生がふっと笑った。
「……それって悪いことなの?」
「え?」
思わず顔を上げると、先生はまっすぐに私を見ていた。
その蒼い瞳が心の奥まで見透かしてくるみたいで、息をのむ。
「はその時、ずっと苦しんでたその場所から……やっと、一歩踏み出せたんでしょ?」
穏やかで、けれど確かな声。
「たとえ、それが“自分のため”だったとしても――
その一歩が相手に届いたから送ることができた」
(……私の、一歩が)
胸の奥に、そっと何かが灯る。
けれど私はそっと視線を落とし、小さく首を傾げた。
「……それでも、先生やみんなみたいに……他人のために動ける呪術師とは違うと思うんです」
それはずっと心の奥にあった、私の小さな引け目。