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【呪術廻戦/五条悟R18】魔女は花冠を抱いて眠る

第16章 「心のままに、花が咲くとき」


***


数日後の朝――
ゆっくりと、私はベッドから足を下ろした。

 
まだ少しふらつくけれど、壁に手を添えればなんとか立てる。
脇腹の奥がぴりっと疼く。
けれど、あのどうしようもない痛みはもうなかった。


(……歩ける……)


身体が動く。
呼吸ができる。
たったそれだけのことが、こんなにも嬉しいなんて。


硝子さんが何度も反転術式をかけてくれたおかげだ。
毎日疲れた顔で、それでも諦めずに術式を行ってくれていたのを私は知っている。


(……ありがとう、硝子さん)


そう思いながら、ゆっくりと病室の窓に近づく。


カーテンを少しだけ開けると、まだ朝の光は淡くて、
どこか夢の中みたいにぼんやりと白かった。

 
眠っている間のことはあまり覚えていないけれど、
ときおり、誰かの声を聞いたような気がする。


あたたかい手の感触。
額に触れた、大きくて優しい手。


(……先生、だったのかな……)

 
確かめることはできない。
でも、なんとなくそうだと思った。


そのとき――


背後でどさっと、何かが落ちる音がした。


反射的に振り返ると、病室の入口のあたりに人影があった。
手から滑り落ちた紙袋が、床の上に落ちている。


(……あ……)


そこに立っていたのは先生だった。
いつもの制服姿だったが、今日は珍しく目隠しをしていない。
私を見て、蒼い目が大きく見開いている。
 


「…………?」



名前を呼ぶ声が、ひどくかすれていた。
ゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる。


私はうまく言葉が出せなくて、ただその場に立ち尽くしていた。
壁に添えた手が少し震える。


先生の足音が近づいてくるたびに、鼓動がどんどん速くなる。
言いたいことが喉の奥につかえて出てこない。


(……あれ?)

 
ふと、思い出す。
今週は先生、出張って。

 
(たしか、遠方の任務で数日戻れないって……硝子さんが……)


じゃあ、なんで――


(……なんで、ここに……)


思考が追いつかない。
心の準備なんて、何もできてない。

 
(どうしよう……何から話せばいい……?)

(まず……この前のこと、謝らなきゃ。それから……)


でもその「それから」がうまく言葉にならない。
頭が真っ白になる。
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