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【呪術廻戦/五条悟R18】魔女は花冠を抱いて眠る

第16章 「心のままに、花が咲くとき」


気がつけば、先生の姿がもう目の前にあって、
ほんの指先ひとつで触れられる距離だった。



「あの、せんせ――」

 

声をかけようとして、口を開いた。
けれど、言葉がすべて出る前に――


あたたかいものが全身を包み込んだ。


(……えっ……)


言葉も思考も追いつく前に、私は抱きしめられていた。
強くて、大きくて、あたたかくて。
ずっと恋しかった、あの腕の中だった。

 

「……よかった……」



小さな声が耳元で震えている。

 
(……そんな声、初めて聞いた……)


いつもみたいに、冗談を言ってくれればよかったのに。
いつもみたいに、軽口で茶化してくれれば……

 
先生が――
“あの”先生が、こんなふうに声を震わせるなんて。


ぎゅっと抱きしめられた腕の強さが、何よりも雄弁だった。
どれだけ私のことを案じてくれていたのか。


それだけで、涙がこぼれそうになる。

 
(……ごめんなさい)

 
何も言えなくて、ただその背中に手を添えた。


先生の指先が私の背中を確かめるように撫でる。



「おかえり」




それを聞いて、頬を伝う涙があとからあとから溢れてくる。
声にならない嗚咽が喉の奥に詰まって、でも、伝えたかった。

 

「……ただいま」

 

ようやく絞り出した声はかすれていて。
けれど、それでもちゃんと届いてほしくて……
私はぎゅっと背中に回した腕に力を込めた。

 
ふたりのあいだに言葉はなかった。
ただ、お互いのぬくもりだけが何よりの答えだった。

 
しばらくのあいだ、時間が止まったみたいに、
私たちはただ静かに抱きしめ合っていた。


鼓動の音だけが、やけに大きく耳に響いていた。


(……このまま、ずっと……)


そんなふうに思ってしまいそうになるほど、心地よかった。


けれど――
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