第12章 「極蓮の魔女」
「やっぱりね、僕の言った通り。の力は綺麗で、温かい力だよ」
その言葉が、胸にじんわりと。
張り詰めていた何かが、静かにほぐれていく気がした。
「君が呪力を使わずに呪霊を“祓う”ことができた理由も、説明がつく」
「……どういうことですか?」
先生は、落ち着いた声で続けた。
「の場合、“祓う”っていうよりは――“還してる”に近いのかもね」
「……還す……」
思わず、口の中で転がすようにその言葉を繰り返す。
「怒りや恐怖で乱れた魂を、本来あるべき場所に送り還す」
「仏教ではね、苦しみや憎しみの果て、魂がようやく辿り着く最後の場所に一輪の蓮が咲いているとされてる。その蓮のことを、“極蓮”って呼ぶ」
「……」
「救いの花でもあり、その場所に至った魂はようやく安らぎに還る。だから、“極蓮の魔女”――」
「……極蓮……」
その言葉が、胸の奥でじんと響いた。
(……清らかで、美しいのに。どうしようもなく、孤独な名前――)
救いの象徴だというのに、どこか哀しみを纏って聞こえた。
“最後の場所”に咲く花なんて、まるで――
(……誰にも届かない場所で、ひとり咲いてるみたい……)
わたしの力が、そんな名で呼ばれるものだとしたら。
その花は、優しさなのか。
それとも、呪いなのか。
(……わたしは、どっちだと思いたい?)
先生が次の頁をそっとめくると、現れたのは墨で描かれた、ひとりの“女”。
その目は伏せられ、どこか悲しげな微笑みを浮かべている。
(……あ)
その姿に、見覚えがあった。
夢の中で何度も出てきた、“あの人”。
「……悠蓮……」
その名前を呟いた瞬間、懐かしくて、切なくて。
そんな感情が、一気に押し寄せてくる。
先生が隣の頁に目をやったとき、そのめくる指がぴたりと止まった。