第12章 「極蓮の魔女」
「……解けたよ」
そう先生が告げると、布を包む力がふっと抜けた。
先生が布を外すと、現れたのは――
墨の色が褪せた、手のひらほどの冊子。
表紙には一文字、まるで刻むように書かれていた。
「……環」
表紙をめくり、最初のページを開いた。
「これは……」
先生が裏表紙の内側に、小さな筆文字があるのに気づいた。
細くかすれたその文には、こう記されていた。
『これは、“極蓮の妖女”にまつわる断章なり』
「……極蓮の……妖女……?」
「“妖女”は昔の言い方で、“魔女”ってこと」
「魔女……」
先生はふたたび頁をめくると、滲んだ文字が並んでいた。
「……読みづらいけど……これは、和歌だな……」
先生は崩れかけた草仮名に目を落とし、一行ずつ、ゆっくりと読み上げ始めた――
『――はな かむり
たまのをに ゆらぎしこゑよ
よるの しづくに うつしゑを
すくふは そよぐ まがれなる……』
読み上げられるたびに、言葉が胸に刺さっていく。
意味を正確に理解しているわけじゃない。
でも――
音のひとつひとつが、身体の奥を揺らしていく。
『――ひとのよに
たましひを しるしぬものは
ひかりにかへる わのまじなひ
うまれしときより たまゆらの――』
その言葉たちはあまりにも優しくて、あまりにも遠くて。
気づいたときには、もう涙が頬を伝っていた。
(……どうして……)
何に泣いているのか、自分でもわからなかった。
でも、止まらなかった。
目を閉じれば、遠い遠い記憶の奥で。
同じ声が、同じ詩を歌っていたような――そんな錯覚すらしてくる。