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魅惑の恋【短編集】

第38章 いつも笑顔のあの人は…✿保科宗四郎✿


ファイルを棚に戻して資料室を出る。自主トレでもしようとトレーニングルームに向かっていると、キャッキャと猫撫で声が聞こえて来た。

ちらっと横に視線を流しながら廊下を進んでいく。
数人の女性隊員に囲まれ、彼は笑っていた。
整った顔にムードメーカーのような明るい性格、それに加え、副隊長という肩書き。気に止めない女性などいるのだろうか。

胸の奥がチクッと痛んだ。

「はぁ……」

意図なく溜め息が零れる。
私といると楽しくないんだろうか。だから笑わないのだろうか。
自分の性格はよくわかっている。ノリがわからない、真面目な性格。あんな風に砕けて話すことなど出来ない。

スピンバイクのハンドルに肘をつき、俯きながらゆっくりペダルを回していた。これではトレーニングにならないとわかっていながらも、少しずつ視界が歪んでいく。

肩に触れた温かさに驚いて、心臓を跳ねさせながら顔を上げた。その反動でポロッと雫が頬を流れる。

「え……どしたん?どっか痛いん?」

ふいっと顔を逸らして、袖でゴシゴシと擦った。
何故ここに来たのか知らないが、自主トレをするなら声をかけずにして欲しかった。

「……頑張り過ぎんようにな」

頭を数度撫でてトレーニングルームを出ていく。
涙の理由を聞くことはない。笑うこともない。副隊長はただ、優しい声色と温かさだけを残していなくなった。
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