第3章 瑠璃—るり—
「…………ぇ」
「ぃや、だからその、付き合ってる人、とか。いるのかなって」
話したいことがあるからって。
呼び出された屋上の、ドアの向こう。
クラスで隣の席の男の子。
顔を真っ赤に染めて。
サラサラの髪の毛が風になびく。
「…………ぃない、よ」
ドクン
ドクン
心臓が鳴く。
騒ぐ。
声が震える。
「…………俺、ずっと。中学の時から…………」
ああだめだ。
気持ち悪い。
心臓の音がずっと耳の奥で鳴り止まない。
頭に響く。
頭が痛い。
『好き』。
人から一方的に送られる好意がこんなにも心の奥底をざわつかせるなんて知らなかった。
こんなにも。
怖いものだったんだ。
「東さん?大丈夫?」
一瞬ふらついた隙に、彼の手が背中へと触れた。
咄嗟に感じた憎悪。
拒絶。
————嫌悪。
「…………めん、なさ…………」
「ぇ」
目眩がするほどの嫌悪に耐えられなくて屋上を後にした。
「待って東さん」
「…………ごめんなさい。ごめん、あたし…………」
咄嗟に掴まれた腕から温度が下がる。
「あたし…………、ごめん応えられない」
「好きな人、いたりする?」
好きな、人…………。
好きな。
小さく、だけどしっかりと首を横にふる。
そんな言葉でなんて括れない。
好きなんて思うことすらおこがましくて。
口にすることすら憚れる。
「でも大事なの、大切なの。ごめんなさい…………っ」
「そっか。ごめん困らせて」
「…………ごめんなさい」
応えられない好意が、こんなにも胸が詰まるなんて。
知らなかったの。
こんなにも怖いものだったなんて。
燐は?
黎は?
あたしが好きなんて言ったら?
胸の詰まりに嫌悪する?
一方的な好意を向けられたらふたりは、どう思う?
「瑠璃」
屋上からどうやって教室まで来たのか。
自分の足がどこにあるかさえわかんなくなって。
寒い。
体温が下がる。
「…………お兄ちゃん」
ふたりの同じキィがハモる声が好き。
あたしを見る、色香を含んだ鋭い視線が好き。
「お兄ちゃんは、瑠璃に好かれたら迷惑…………?」