第31章 【贖罪の旅】
目を開けると――いや、開けたと思っただけで、実際はまだ目を閉じているのかもしれない。そう錯覚するくらい、其処は光の届かない場所だった。
強いて言えば、それはまるで泥沼の底にいるような心地がした。
「ここは何処だ?暗い、何も見えない」
「ここは何処でもない、誰も辿り着く事の出来ない世界の果て。創世が終わり、終焉が始まる場所」
「誰だ!?」
何も見えない暗闇の中で、突然声が聞こえてきた。虚を突かれ声を荒げると、返って来たのは凛とした女性の声だった。
「私は光の精霊。彼方はかつて1人の人間だった頃の私の片割れであり、新しい闇の精霊でもある」
「闇の……精霊!?何を言っている?俺様はっ……いや俺は……俺は誰だ?思い出せない、何も思い出せない!?」
かつての片割れ?新しい精霊?いや、そんな事より、どんなに思い出そうとしても、自分について全く何も思い出せない。
混乱に混乱を極め、頭がおかしくなりそうな自分を見て、光の精霊は哀れみを帯びた声で囁いた。
「愚かなる者……彼方は幾重もの闇に囚われ、此の闇の中を彷徨い続ける運命にある」
「彷徨い続ける……?この闇の中を?」
「そう、此処はあの子の心象世界。あの子の創りだした、心と言う名の闇の中」
「……闇の中。そうか、自分は闇の精霊になったのか」
何故かは分からない。だがそう言葉にすると先ほどまでの混乱が解け、何か腑に落ちた気分がした。
何も捉えることの出来ない闇の中……次第に自分と言う個としての概念が無くなり、ふと気づけば無限に広がる闇の中に溶け込むような、まどろみと深淵が広がる。
「さようなら、かつて『 』と呼ばれた者よ。私はこの世界の裏側で、ずっと彼方を見ている――」
そう言い放つと、目を開けていられないほどの強い光と共に、声は消えた。それを最期に、世界は完璧なる闇に包まれた。
嗚呼そうだ……もう行かなければならない、果てのない旅に。贖罪という終わりのない旅に。かつての名を捨て、新しく闇の精霊として深淵を彷徨うために――。