第30章 【人ならざる者】
生前と同じように、セドリックは女心を揺さぶる様なセリフと共に爽やかに笑った。その懐かしい笑顔に、ついクリスの頬も緩む。
「なあセドリック、此処はどこなんだ?もしかして天国とか?」
「呼び方は色々あるよ。天国と呼ぶ人もいるし、アルカディアと呼ぶ人もいる。あとはアヴァロンと呼ばれる時もある。……ティルナ・ローグとは少し違うけど、大体似たような場所だよ」
「でも、どうしてセドリックがこんな所に?」
「僕はね、君をこれ以上先に進ませないために待っていたんだよ」
「これ以上先に……?」
「ああ、君にはまだ役目が残っているから」
そう言ったセドリックの瞳には、優しさとほんの少しの哀愁の色が浮かんでいた。その瞳を見たクリスは、自分に課せられた「役目」が何なのか、不思議と体に染み入るように予想がついてしまった。
「どうしてもやらなきゃダメなのか?」
「ああ、それがこの世界を救うたった1つの方法なんだ」
「……やりたくないって言ったら?」
「この世はヴォルデモートの手に落ちる。純血以外の魔法使いは全員殺されるだろうね」
なるほど、だからわざわざセドリックがこんな所で自分を待っていたのか。そう考えると、セドリックもとんだ貧乏くじを引かされたものだ。
きっとここで駄々をこねたら、他でもないセドリックが困る事になるだろう。それならば、と、クリスは名残惜しむようにセドリックのグレーの瞳をじっと見つめた。
「最後に1つ、ワガママを言っても良いか?」
「なんなりと、お姫様」
「私の手を握ってて欲しい、臆病風に吹かされて逃げ出さないように」
「それくらい、お安い御用だよ」
セドリックがクリスの手を握ると、クリスはその温かさに心から涙した。
以前のクリスなら、「使命なんてクソ喰らえだ」とでも言って反発しだろうが、実際この瀬戸際に立たされてみると、嫌でもやるしかあるまいという気持ちになる。
セドリックとクリスは向かい合わせになると、互いの両手を重ねた。すると先ほどまで穏やかだった風が、少し強くなった。