第30章 【人ならざる者】
ガタン、ガタン、ガタン、と揺れる列車の中で、クリスはふと目を覚ました。するとそこはホグワーツ特急の中だった。
しかし、何かがおかしい……そう、いつものホグワーツ特急なら沢山の生徒でにぎわっているはずなのに、今は自分以外誰の気配も感じないのだ。
「ここは何処だ?――誰か!誰か居ないのか!?」
声を大きくして呼びかけても、返ってくるのは静寂だけだった。クリスは呆然としてソファーに座りなおすと、車窓から外の景色を眺めた。
するといつも通りの田園風景やのどかな街並みは一切なく、白いもやの様なものしか見えなかった。
「……一体どうなってるんだ?」
クリスがそう独りごちた時、白い煙を吐きながらゆっくり列車が止まった。そこは普通のプラットホームではなく、白い石がホームの代わりに階段状に広がっているだけだった。
クリスは、何故だかそこで降りなければいけないような気がしたので、コンパートメントの扉をゆっくり開けた。すると大好きな初夏の草の匂いが鼻をかすめ、思わず微笑みがこぼれる。
「よし、少し歩いてみるか」
階段状になっている白い石のプラットホームを降りていくと、そこに広がっていたのは驚くほど広々とした花畑だった。
さわやかな風が吹き、草花が揺れ、溢れる光が遥か彼方まで続いている。それを見た瞬間、クリスはホグワーツ特急の中で夢見ていた、あの花畑を思い出した。
それと同時に、いつものように遠くから誰かの声がして、クリスはその声に招かれるまま花畑の中を駆けて行った。足を進める度に、呼びかける声と姿がはっきりしてくる。
そして溢れんばかりの太陽を背に立っていたのが誰だか分かると、クリスは堪えきれず、涙を流しながら笑った。
「ずっと、ずっと会いたいと思っていたんだ――セドリック」
これは夢だろうか。いや、夢でも良い。夢で良いから暖かな陽だまりの中で、再びセドリックに逢う事が出来た。
喜びからクリスが笑顔で涙を流すと、セドリックは人差し指でそれをすくい、爽やかに笑った。
「相変わらずだね、泣き虫お姫様」
「そっちも、相変わらずのプレイボーイだな」
「そんなことないさ。こんな事をするのは君だけだから」