第29章 【帰らぬ人】
上手くいって良かったと呟きながらも、ハリーの目は周囲を警戒していた。だが横に立つ温室に人気はなく、壁が破壊された形跡はあったが、周囲に死喰い人やディメンターの影はなかった。
「よし、それじゃあ皆、今度は僕について来て」
「どこへ行く気なんだ?」
イライラしたドラコとは正反対に、ロンはケロッとした様子で笑っていた。
「困った時の生き字引、だよ」
* * *
ホグワーツ城内は――いや、もう城と呼べる場所は殆ど無かったが、それでも形を留めていた医務室周辺は、部屋のみならず廊下の殆どを開放して怪我人の救護にあたっていた。
その中でも、ハーマイオニーの働きぶりは目を見張るほどだった。
「フェルーラ、巻け!」
ハーマイオニーが折れた腕を固定して包帯を巻くと、また次の患者が運ばれてきた。
これでもう何人目だろうか。息吐く暇もなく、今度は落ちてきた瓦礫に足をつぶされた少年が、友人に抱えられてどうにかここまで歩いて来たようだ。
「癒えよ、エピスキー!」
しかし疲弊しきったハーマイオニーの魔力では、つぶされた足を治すには至らなかった。
ハーマイオニーは反射的にマダム・ポンフリーの方を振り向いたが、とても声をかけられる雰囲気ではなかった。
マダム・ポンフリーは鬼気迫る表情で、重傷患者を一手に診ていた。そしてそれと同じ位、死んだ者も看取ってきていた。
「マダム・ポンフリー!少し休憩をなさって下さい!今貴女に倒れられるわけにはいかないのです!!」
力及ばず亡くなった者は、みんな校庭に運ばれていった。
次々と増える遺体を前に、司書のマダム・ピンスがマダム・ポンフリーに強く呼びかけたが、マダム・ポンフリーは頑として首を縦に振らなかった。
「それはなりません、私はこのホグワーツの校医です。例えこの身が朽ち果てようとも、最後の患者を診終えるまで休むつもりはありません!」
そう言い切ったマダム・ポンフリーの背中からは、確固たる意志が熱となり立ち昇っているのが見えた。
その背中を見ながら、ハーマイオニーはピシャリと自分の両頬を叩くと、少年の潰れた足を何とかしようと、自分の知識を総動員させた。