第3章 受胎
私の言葉で女が一瞬揺らいだ。
背中にかかっていた体重がほんの少しだけ軽くなり、私は身体を転がし、バランスを崩した女の腹を蹴った。
そして、右手に鍵を握る。
こんなことならもっと持ってくればよかったなって思ったけど。
まぁいいや。
一個でもどうにかなるし。
「お前らの言う通り、蛙の子は蛙ってんなら。死んでやるよ‼兄と同じ場所に行けば満足なんだろ!!犯罪者を殺した人間がヒーロー扱いされんなら、お前らだってヒーローだよ‼よかったじゃねえか、胸を張れ!!そして後悔しろ!!犯罪者にもなりきれねえ人間を殺したって罪を抱えたまま、呪術師にでもなって糞みてえな人生を送って死にやがれ!!」
もう、こんな世界で生きていくのは無理だ。
こんな蔑まされた世界で、一人では生きていけない。
お兄ちゃんもこんな気持ちだったのだろうか。
お兄ちゃんは、非術師がいなくなればいいって思ってたんだよね。
でも、私は違う。
私は、私は……。
「この世界に生きる人間、全員死ねばいいんだ……」
両の目から、ボダボダと涙が溢れて零れる。
五条悟を殺すことはできなかった。
それだけが心残りだけど。
もういいや、何もかも。
初めからこうすればよかったのかもしれない。
そうしたらすぐにでも兄の場所へ行けたのに。
臆病なだけだったんだ、死ぬのが怖かっただけだったんだ。
でももう、覚悟はできた。
今からそっちに行くから、待っててよ。お兄ちゃん。
私は持っていた鍵を、自分の額へと向ける。
あとは"開錠"でも"施錠"でも"破錠"でもなんでもいい。
呪力を流して鍵を回せば、私は死ねる。