第14章 明日
解剖結果から言うと、脳幹の辺りにイジられた形跡があったという。
家入硝子の見解では、意識障害または錯乱状態を作り出すためではないか、とのことらしい。
脳までイジられるなら呪力を使えるように人間を改造することも可能かもしれない。
脳と呪力の関係はまだブラックボックスだからな。
成程、だから虎杖は様子がおかしかったのか。
「虎杖」
「ん?」
「お前が殺したんじゃないからな」
「それ家入さんにも言われた」
「ならいい」
「でもさ」
自分が殺したと勘違いしてショックを受けているのではないかと思ったが、履き違えてはいないようで安心した。
だけど、虎杖はそれでも唇を噛みしめ、拳を強く握りしめる。
「どっちもさ、俺にとっては同じ重さの他人の死だ。それでもこれは……趣味が悪すぎだろ」
瞳孔が開き、こめかみに青筋が浮く虎杖のその表情は怒りで震えている。
コイツの言う通りだ。
私は話しか聞いていないし、実物を見ていないけれど。
それでも話を聞いているだけでも胸糞が悪い。
「同感。絶対に祓ってやる」
「あの残穢自体ブラフで、私達は誘い込まれたのでしょう。相当なヤリ手です。これは、そこそこでは済みそうにない」
七海はゆっくりとソファから立ち上がり、私と虎杖を見た。
「気張っていきましょう」
「応!!」
「わかった」
七海は伊地知さんに電話を掛けると、調べてほしい内容を簡潔にまとめて話していた。
仕事できる人だな、こいつ。
七海が電話をしている間、私は虎杖に七海の事を聞いた。
「七海って呪術師にしてはまともだな」
「あー、なんか元サラリーマンだったらしいよ」
「え、そうなの?だからしっかりしてんのか。でもなんで戻ってきたんだろ」
「労働はクソだって言ってた」
「呪術師もクソだろ」
「同じクソなら適正ある方がいいんだって」
「ふーん」
そんな理由で呪術師に戻って来れるもんなのか。
というか、いつ死ぬかわからない方を適正あるって、なんかアレだな。
しっかりはしてるけど、考え方がイカれてんな。