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合同リレー作品集【鬼滅・呪術・ヒロアカ・WB】

第4章 6つのお題から自由に選択



普段なら十七段のはずが、その夜は十八段あった。

しかも流川はためらうことなく、その余分な一段に足をかけた。



視界がぐにゃりと歪む。

空気が急に湿り、鉄の匂いが鼻を突いた。



気づけば、七瀬はまた体育館の中に立っていた。

しかし、そこにいるのは流川だけではなかった。



見知らぬユニフォーム姿の選手たちが、影のように薄暗く並び、無言でシュートを繰り返していた。

ボールの音は低く濁り、滴る汗の匂いに混ざって、生臭い鉄の臭気が漂う。

「……………。」

流川は彼らと同じように、虚ろな瞳でボールを放ち続けていた。



「流川!」

恐怖を押し殺し、七瀬は駆け寄った。

だが彼は振り向きもせず、かすれた声で言った。

「……練習の邪魔すんな。」



冷え切った声に背筋が凍る。

次の瞬間、七瀬は見た。

流川の手首に、白く濡れた指が絡みついているのを。



それはこの世のものとは思えないほど冷たい影の手で、強く、強く彼を引き留めていた。

見知らぬ選手たちが、笑みを浮かべながらシュートを放つたびに、その指は食い込んでいく。



「……やめて!」

七瀬は恐怖に震えながらも、流川の身体を抱きしめた。

必死に腕を回し、胸に顔を押し付ける。

「戻ってきて……お願い!」



その声に反応するように、流川の瞳がわずかに揺れた。

虚ろだった光が少しだけ戻り、ほんの一瞬、七瀬を見た。

だが背後からは、階段を上る無数の足音が絶え間なく響いていた。



「……帰るぞ。」

無表情のまま、しかし確かに力を込めて七瀬の手を握りしめる流川。

二人は体育館を後にした。



振り返ることはできなかった。

けれど最後の瞬間、視界の端に映った階段の最上段――

そこには汗に濡れた見知らぬ選手たちがずらりと並び、口元に不気味な笑みを浮かべてこちらを見下ろしていた。



七瀬は震える手で流川の腕を掴み、ただ必死に歩を進めた。

彼の体温が冷たいのか、それともまだ影に触れられているのかは分からなかった。

けれど、確かにその手の力だけが、七瀬を現実へと繋ぎ止めていた。



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