第4章 6つのお題から自由に選択
スラムダンク :流川楓✖️怪談
湘北高校の夜は、ひどく静かだった。
風に揺れる木々の葉擦れの音と、遠くの道路を走る車の低い唸りがかすかに届くほかは、校舎全体が時間を止めたように沈黙していた。
グラウンドの外灯だけがぼんやりと光を投げ、校舎の窓は暗く閉ざされている。
その中で唯一、体育館だけが規則正しい音で満たされていた。
――ボールのバウンド音。
「……………。」
汗を滴らせ、ボールを操っていたのは流川楓だった。
誰も見ていなくても、彼は夜の練習を欠かさない。
何度も繰り返されるドリブルとシュート。
その動きは機械のように正確で、ゴールへと吸い込まれる音が体育館に響いた。
彼の真剣な横顔に見惚れつつも、七瀬は胸の奥にわずかな不安を覚えていた。
最近の流川は練習に没頭しすぎて、食事もろくに取らない。
心配で、つい夜にこっそり体育館を覗きに来てしまったのだ。
しかし、その夜は何かが違っていた。
練習の音に混じって、別の気配が忍び寄る。
靴底が床を擦る音、呼吸ともつかぬ空気の揺らぎ。
七瀬は一瞬、バスケ部の誰かが来たのかと思った。
けれど振り返っても、誰もいない。
それどころか、音の主は見えないまま、体育館の空気がじっとりと重くなっていく。
流川は気にも留めない様子でシュートを放ち続けていた。
ただ、その目はどこか虚ろで、焦点が合っていない。
嫌な胸騒ぎを覚え、七瀬は声をかけようと一歩踏み出した。
だがその瞬間、バウンドの音がぴたりと止んだ。
静寂の中で、流川が無言のままボールを抱え、ゆっくりと体育館を後にする。
七瀬は慌てて追いかけた。
夜の階段を上る足音が響く。
――コツ、コツ。
だが、階段の途中で七瀬は妙な違和感に気づいた。
――段の数が合わない。