第24章 Genesis3:9
伊藤さんのことを下の名前で呼んでいるのに少し驚いた。
しかし父親も伊藤さんも平然としているので、いつからそうなったのかはわからないが随分前からそう呼んでいるんだろうと思われた。
「……潤くんの前でこれからの話をするのは憚れるから、しばらく席を外して欲しいんだが…」
「なに水臭いことを言ってるんですか、櫻井のおじさん!」
潤は明るく笑うと、すぐ真顔になった。
「この半年、翔の面倒を主に見ていたのは俺ですからね」
低く、斬りつけるような鋭い声。
その変貌ぶりに驚いたのか、父は大きく目を見開いて固まったように動かない。
「…まあ、君には我々のこういった態度が不可解に見えるかもしれんがね、だがこれには事情があって…」
なんとか言葉を発したが、それはらしくもなく言い訳めいていた。
「翔のことは、あなたたちよりも俺は理解していますよ。あなた方の”ご事情”とやらも理解しているつもりです」
皮肉に言い切ると、潤はここからテコでも動かないというようにソファの背もたれに寄りかかって、伊藤さんに出されたコーヒーカップを手に取った。
「どうぞ、どんな話でも。俺は外には絶対に漏らしません」
そう言ってコーヒーを口にした。