第24章 Genesis3:9
院長室のドアをノックすると、内側から静かに開いた。
中に立っていたのは、父親の秘書の伊藤さんだった。
「翔様、お待ちしておりました」
つぶらな瞳を細めてにっこりと笑うとドアを開け放った。
伊藤さんの女性らしいフレグランスの香りが、ほんのりと漂っている。
俺の覚えている遥か昔の記憶にもこの人は居る。
なんでも父親の大学の後輩の紹介で桜井総合病院に入ったのだとか。
シングルマザーをしているところを雇って貰ったから、院長には感謝していると言っているのを聞いたことがある。
伊藤さんの居る前室から奥に続くドアを開くと、部屋の奥に父親がいた。
「院長、翔様と松本様がおいでです」
父親は俺に視線だけ寄越して頷くと、潤へ愛想よく頭を下げた。
「やあ!潤くん、久しいね」
「櫻井のおじさん、ご無沙汰しております。お変わりありませんか?」
潤の如才ない(息子の筋のいい友人っぽい)挨拶を聞いている父親の顔は満足げだった。
「ああ、今日は悪かったね。翔の付き添いなどと…」
「いいえ。ちょうど取材休みを取っていたところですので」
この分なら、今日は何も起こらないかもしれない。
ソファの席に促され、父親は俺達の向かいに座った。
しばらく潤が近況を話していると、伊藤さんがお茶を持ってきた。
「蘭くん、しばらく電話も面会も通さないように」
「はい。承知しました」