第24章 Genesis3:9
「……長年取り組んでた論文、完成させたじゃないですか…そんな、俺のこと気にしてる暇なんてなかったでしょ?」
泣きそうになるのを必死で堪えながら言うと、三宅先生は笑った。
「そーだね!不肖の弟子のことなんか考える暇もなかったね!」
「でしょうね!本当にありがとうございます!」
そう言って笑い合える。
この時が奇跡のように思えた。
それは「生きてる」から。
死んだら、こんな瞬間を感じることもできなかった。
自分を思ってくれる人が居るって…わからないまま死ぬところだったんだ。
「…なーに泣いてんだよっ」
「な、泣いてなんかないですっ」
袖で滲んだ涙を拭こうとしたら、横からハンカチが差し出された。
思わず隣に座る潤を見ると、潤の目が真っ赤で。
「…ありがと」
「うん」
「まー!よかったよ。ほんと、櫻井が戻って来てくれて」
井ノ原先生が立ち上がって、窓辺に立った。
窓の外を見ながら、袖でゴシゴシと自分の顔を擦っている。
どうやら井ノ原先生も泣いているようだった。
「本当にありがとうございます。身体、ちゃんと戻して早く戻ってきます」
そう言って頭を下げると、みんな笑って俺の肩や背中を叩いた。
「待ってるからな!」
まるで、励ますみたいに明るく。
「焦らなくていい。人生、長いんだから」
井ノ原先生が言うと、三宅先生も頷いた。
本当に…
この病院を選んでよかった。
俺、間違ってなかった。