第9章 ローグ 「一輪のジニア」
胸がキュッと締め付けられる。今にも泣きそうな彼の目に囚われそうだ。彼がそのカナタに会いたいと言うのが痛いほど伝わる。
でも、
「すみません…。違います。私、そんな記憶ないし」
正直にそう伝えるとローグさんは下を向いた。そして深く頭を下げてから顔を上げて。
「少し、顔を洗いに行っても良いか?今の俺はとても酷いことを言った。お前の言葉を信じていないような。悪い事をした」
私に謝って彼はお花の水やり用の水道に歩いて行った。あの話を聞いて、ローグさんがどれだけもう1人のカナタさんの事を愛していて後悔しているのか分かるものだ。
ちょっとでも慰めたいから来る時に通った出店のところもまで戻ってで軽食でも買ってこようと。
ーーー
アイスを買って戻る。戻ってくるとローグさんが何故かキョロキョロしてひどく取り乱していた。
「ローグさん!?大丈夫ですか?」
私の声に振り返ったローグさんが走ってくる。そして勢いよく私を抱きしめた。
「わ…っ?!食べ物は無事…、どうしたんですか?」
ローグさんの背中をアイスを握ったままの拳でトントンと叩く。
「…すまん。だが何も言わずに俺から離れるな」
どうやら不安にさせてしまったようだ。こんな話を聞いた後に、申し訳なくなる。
せいいっぱい慰めようと背中をぽんぽんと叩いていると、ローグさんがなぜか息を飲んだ。そして。
「……やっぱりカナタだ」
「へ?」
首を傾げる私の服を後ろに引っ張った。肌着と素肌が彼の目に明らかになる。
「肩に061という奴隷の紋章が入っている。お前はカナタだ。俺と昔いたカナタだ」
確かに彼の言う事は私に当てはまる。私の肩には、それがある。疑問に思ったこともないままでそれを当たり前として受け止めてきた私はこれが奴隷の紋章だなんて知らない。
「…そんなの、信じられません」
するとローグさんは顔を歪める。しかし確信が出来たのかぐっと肩を掴んでくる。
「そうか。しかし俺は覚えている。俺はお前をあのカナタだと思っている」
「いや、…違います。私は私です…!」
頭が混乱してきて、ローグさんから逃れるように少し胸を押すと、ローグさんは言葉を詰まらせて私を見つめた。
そして、怖くなって。走って逃げた。