第18章 【夏油/悲恋】偽り睡蓮花
【記録⑤ 散りゆく睡蓮花】
出産の日。
ゆめは命がけで子を産んだ。
陣痛に苦しみながらも、彼女は笑顔を絶やさなかった。
「夏油様……私、お母さんになるんだ……」
産声が響いた瞬間、ゆめの目から涙が溢れた。
「可愛い……可愛いね、女の子かぁ……」
抱かせてもらった我が子を見つめるゆめの顔は、安堵と幸福に満ちていた。
小さな手。小さな足。柔らかな頬。
あったかい命の鼓動を感じながら、胸の内では娘の傍らに居ない愛しい人の身を案じた。
「……大きくなったら、お父さんに会おうね。お仕事ですぐにこっちに来られないけど、喜んでくれるよ。きっと、三人で幸せに暮らせるよ」
その夜、ゆめは眠れなかった。
我が子と引き離されて別室に運ばれ、彼女は産後の痛みを抱えながら独房で天井を見つめていた。
日の出とともに刑が執行されることを、本人に知らされていなかった。
だが、予感していた。
身体の奥底から湧き上がる、言いようのない不安がゆめを蝕む。
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