第18章 【夏油/悲恋】偽り睡蓮花
「……夏油様」
小さく呟く。
初めて会った日のこと。
初めて褒められた日のこと。
初めて抱きしめられた日のこと。
全てが、走馬灯のように蘇る。
涙が、一筋頬を伝う。
「私、幸せです」
翌朝、刑は淡々と執行された。
ゆめは笑顔のまま前を見据える。
彼女の目には何が映っていたのか。
夏油傑の姿が見えたのだろうか。あるいは、生まれたばかりの我が子の笑顔だろうか。
それとも、三人で過ごす幸せな未来の幻だろうか。
血に塗れながら、ゆめは手を伸ばした。
まるで、誰かの手を取るように。
「……夏油、さま……迎えに、来て、くれたん、ですね……」
その唇は、確かにそう動いた。
そして、彼女は静かに息を引き取った。
執行人の背筋に悪寒が走る。
あれほど美しい死に顔を、彼は見たことがなかった。
まるで、聖母のような微笑みをたたえていた。
狂った殉教者の如く、一片の悔いもなき最期であったことに違いない。
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