第3章 君が欲しくて
ちゃんの先輩が酔い潰れた対処をして、少し元気のないちゃんに声をかける。
後はちゃんを無事に帰宅させてあげないといけない。
ただ、ちゃんをこんな夜更けに、それもこんな危ない街を一人で帰らせるなんて、俺には出来ない。
独歩君を思い浮かべたけど、ちゃんの様子から残業だろうと思って、諦める。
俺ではちゃんが嫌がるかもしれないけど、いないよりはマシだろうし、何より、俺がちゃんを他の男に任せたくなかった。
ヘルプの子に、なるべくちゃんには触れないよう伝え、少し席を外す。
珍しく今日は俺の指名が少なく、尚且つ人気ホストが数人出勤の日だったからか、比較的帰りやすかったようで、すんなり帰宅の許可が出た。
急いでちゃんの元に戻ると、不安そうに揺れたちゃんの目が勢いよくこちらを捉える。
「大丈夫かい? さぁ、行こ……っ!?」
予想外で、固まってしまった。
まさか、ちゃんが自ら俺に触ってくるなんて。
まぁ、正しくは俺の服に、なんだけど。
それでも、こんな事はなかなかないから、驚いてしまう。本人も少し驚いたような顔をしていたけど、手は離れなかった。
俺は嬉しくてニヤけてしまいそうになる表情を隠して、出来るだけ不安そうなちゃんを安心させるように微笑んだ。
「ほら、帰ろう。送るよ、立てる?」
控え目に立ち上がり、俺の服を掴んだまま歩き出した。
俺の後ろをついて、店から出る。
ちゃんには悪いけど、少しでもこの時間が長く続けばいいと思ってしまう。
呼んでいたタクシーに乗り込み、服から離されてしまった手に寂しさを感じながら、流れる景色に目をやる。
「あの……仕事、よかったんですか?」
「ああ、大丈夫だよ。気にしないで」
俺を気にしてくれる事に、また気持ちが浮き足立つ。
先程から上着を脱いでいる事が気になっているのか、俺と上着をチラチラと見ながら、落ち着かない様子のちゃんと目が合って、すぐ逸らされる。
ちゃんといる時は、出来るだけ素の自分でいたかった。