第3章 君が欲しくて
ちゃんが指定したマンションに着いた。
「わざわざすみませんでした、ご迷惑を掛けてしまって」
「いや、だ、大丈夫っ! 気にしないでっ! 俺が勝手にやっただけだしっ!」
申し訳なさそうに言うちゃんに、出来るだけ責任を感じさせないように、笑って見せた。
タクシーをそのまま待たせて、車の傍に立ってちゃんが中へ入って行くまで見守る。
名残惜しいけれど、引き止めた所でどうしようもない。
ちゃんは何度か振り返って、軽く会釈をしながら中へ入って行く。
その姿が可愛くて、何だか愛おしくなって、頬が緩むのを感じた。
「……好きだな……っ!?」
無意識にそう呟いて、驚きで口に手を当てた。
気になる存在ではあったけど、まさかそんな感情になってたなんて。
この俺に、まだこんな感情が残っていたなんて。
今日は驚きばかりの日だ。
待たせているタクシーに乗り込み、自宅近くの道で降りる。
のぼせそうな頭と体を冷やす為、残りの道をゆっくり歩く。
「一二三?」
声を掛けられて振り返ると、疲れた顔をして立つ親友の姿があった。
「おー? どっぽちーん、今帰りー? おつおつー」
「こんな時間にどうした? 仕事が終わるには早いんじゃないのか?」
「まー、色々あるわけさー」
「何かご機嫌だな」
「そうー? でも確かに、いい事はあったかなぁー」
呆れた顔をする独歩の後ろを歩き、背中に言葉を掛ける。
「なぁ、独歩」
「ん? 何だ?」
「……ちゃんの事、どう思ってる?」
俺の口から女の子の名前が出てきたのが意外だったのか、ただ予想してなかっただけなのか、独歩の疲れた目が少しだけ開かれる。
「どうって、どういう意味だよ。あいつはいい後輩だけど……何だよ、急に」
不思議そうに眉間に皺を寄せて、独歩は首を傾げる。
「そういえばお前、初対面からに興味深々だったよな」
俺は独歩をまっすぐ見つめて、口を開いた。
「独歩が彼女を何とも思ってないなら、俺が本気になっていいか?」
驚きに開かれた目と、ポカンと開いた口。
俺にしては珍しく、女の子に興味を持っていたから少しは何か感じているかと思っていた。