第2章 その感情の正体は
〔あなたside 4〕
けれど、この人は平気なんだろうか。
少なくとも、この人の彼女になる人は苦労するだろう。
こんな煌びやかな世界に生きる人の後ろに、必ず女性の影がチラつくんだから、たまったもんじゃないだろう。
私なら、耐えられないな。
そもそも、女は特に嫉妬深い生き物だから。
彼の場合は、ホストという特殊なお仕事だから、お客さんにも気を使わないといけないんだから、彼女との板挟みなんて大変過ぎる。
そんな事を考えていたら、いつの間にか一緒に来ていた先輩が、ベロベロになっていた。
楽しむのもいいけど、巻き込まれるこちらの身にもなって欲しい。
ただ、先輩を連れて帰るには、私の体は小さかった。
女性を助ける事すら出来ない、自分のこの小さな体が本当に嫌いだ。
「沙織さん、ちゃんと帰れたみたいだから、安心して」
「ありがとう、ございます……」
男の人は、怖い。
けど、この人のこの優しく囁くみたいな声は、正直嫌いじゃなかったりする。
同じように異性が苦手だからか、元々持っている人間性なのか、この人からは気遣いが凄く伝わってくる。
今も、私が一人でいて、他の男よりはいいだろうと、忙しいのに私についてくれている。
優しすぎるくらい、優しい人だ。
「独歩君は……また残業か……ちょっと待っててね」
少し席を外した彼は、何処かへ走って行ってしまった。
不安が一気に襲い掛かって来る。
誰もいないわけじゃないのに、賑やかで煌びやかな店内なのに、まるで世界にたった一人で取り残されたみたい。
体が、震える。
自分の体を抱きしめる。
店内には、女性の香水の香りとホストの人がつけている香りとが混ざって、今更気分が悪くなる。
なのに、次に私の鼻をくすぐったのは、男性の香水なのに妙な安心感があった。
誰だがすぐに分かって、急いでそちらを見上げると、そこには優しい笑顔があった。
ホッとして、ため息を吐いた。そして、自然とその人の服を掴んだ。
本当に、無意識だった。
お互い驚きに目を見開く。でも、掴む手は外せなくて。
彼も、何も言わずにまた微笑んだ。
今の私にとって、彼が唯一私を助けてくれて、信頼出来る人だった。