第71章 右手に陽光、左手に新月〜水柱ver.〜 / 🌊・🎴
「(まさかここでもこれを使って稽古する事になるなんてね)」
冊子を手に持った七瀬は、パラパラと頁をめくる。これはある人物から勧められ、本屋で購入した品だ。
一週間前 —— 塩大福を三人で食べていた時に義勇からこんな話を聞いたのだ。
「先日鬼殺隊本部でかるた大会があった。俺は早々と負けてしまったんだが…」
炎柱の煉獄杏寿郎と霞柱の時透無一郎が決勝で戦い、とても白熱した試合展開になり、感動したと言うのだ。
それから七瀬と炭治郎が継子になる事が決まり、あの時参加したかるたを稽古に取り入れたらあらゆる場面で役立つのではないか、とも。
「霞柱の継子から少し話を聞いてはいましたが、確かに面白そうだと思いました」
「俺はよくわかりませんが、義勇さんがやると言うのなら勿論取り組みます!!」
「承知した、では早速明日からやってみよう」
始めた当初は三人共札を取りに行くのが遅く、勝負にはならなかった。
しかし二日経ち、三日が経つと義勇が札を取る速度がグンと上昇した。彼は柱の為、任務をこなす量は継子の二人に比べてどうしても多くなる。
だと言うのに、三人の中で一番上達が速いのは水柱だ。
「師範は私達より忙しいのに、どうして札が取れるんですか?」
「俺もまだ上の句と下の句がなかなか一致しないのに…やっぱり義勇さん…すみません。師範は凄いです!」
早朝の地稽古後、かるたに取り組んでいる三人。
「札の七割か八割は頭に入った。何故覚えが速いかは…秘密だ。お前達も励め。それから炭治郎」
無理に師範と呼ばずとも構わない。
義勇はなかなか師範と呼ぶ事が定着しない彼にそんな事を伝えた。すると途端に破顔する炭治郎である。
「俺は今日から三日間、遠方任務へ向かう。帰宅した際にかるた勝負をするからそのつもりでいろ」
「はい、わかりました! 義勇さん」
「(そうか、師範留守なんだ…)」
一瞬だけ寂しさににた感情が思い浮かぶ七瀬だが、すぐに気持ちを切り替えて了承の返事をした。