第38章 利休の匣〜2026信長誕生祭〜
誕生日当日
その日の夜は、祝いの宴が盛大に行われ、秀吉を始め家臣達が大勢集まって信長の生まれ日を祝った。
「御館様、おめでとうございます」
盃を掲げながら、秀吉がそう言えば、広間に集まった家臣たちも一斉に声を揃えた。
「おめでとうございます!」
賑やかな祝福の声に包まれ、煌々と灯る行灯の明かりが宴の席を金色に染め上げている。豪勢な料理が次々と並べられ、香ばしく焼かれた川魚や艶やかな果実、温かな湯気を立てる椀物、芳醇な酒の香りと笑い声が入り混じり、広間は熱気に包まれていた。
家臣達は皆、晴れやかな表情で笑い合いながら酒を酌み交わしている。
上座に座る信長は、いつものように悠然とした笑みを浮かべ、盃を傾ける。
「ふ……騒がしい奴らよ」
広間を見回してそう言いながら、ぐいっ、とひと息に飲み干す。その声音には機嫌の良さが滲んでいた。
「今日という日を皆、心待ちにしておりましたからね」
三成が嬉しそうに言い、料理を口に運ぶ。
「せっかくの誕生日だ。今宵は派手にいかねぇとな!皆、どんどん食えよ。家康、お前もだぞ」
「ちょっと…政宗さん、そんなに一度に食べ切れませんから」
次々に皿に盛られる政宗手製の料理の数々に、家康が呆れたように溜め息を吐き、その隣で光秀がくつくつと喉を鳴らした。
「今宵は皆、上機嫌だな。さぁさぁ、政宗、お前も飲め」
「おぅ!…って、酒じゃねぇか!その手には乗らねぇぞ、光秀」
「バレたか」
わいわいと盛り上がる武将達を上座から眺めながら、信長もまた満更でもなさそうに口元を緩める。
「信長様、おめでとうございます」
朱里は、信長の盃に酒を満たしながら、今日何度目かの祝いの言葉を口にした。
信長の深紅の瞳が真っ直ぐにこちらを見る。
「貴様の愛らしい口から聞く祝いの言葉はまた格別だな。何度聞いても良い」
「まぁ…」
普段は近寄り難いほどの威厳に満ちているが、今宵の信長はどこか穏やかな柔らかさを漂わせている。
家臣達の言葉に耳を傾ける横顔も、盃を傾ける仕草も、灯りに照らされて一際男らしく見え、思わず見惚れてしまうほどだった。