第38章 利休の匣〜2026信長誕生祭〜
その日の午後、秀吉は件の箱を持って天主にやって来た。
「失礼致します、御館様」
「入れ」
短い返事だが、信長の機嫌は悪くなさそうだ。
静かに襖を開き中に入ると、ゆったりと脇息に凭れて文を読む信長の姿があった。
「これは…お取込み中でございましたか」
「構わん。大した文ではない」
そう言うと、読み終わった文を無造作にたたみ、横に押しやった。
見れば、文箱の中には文が溢れんばかりに積まれていた。
「…祝文でございますか?」
「京の公家衆からだ。全く、どいつもこいつも似たような文を寄越しおって」
「祝文とはそういうものです」
「つまらんな」
本心からつまらなさそうな顔をする信長に対して、秀吉は曖昧な表情で返しながら胸中で苦笑する。
(つまらぬ、などと文句を言いながらも返書は自ら書かれるのだから…)
意外にも几帳面な信長は、忙しい中でも祐筆に任せずに自ら文を認めることも多いのだった。
「で?例の品はどうした?早く見せろ」
「えっ、あ、は、はい…」
急にがらりと話が変わるのが信長らしい、とこれまた胸中で苦笑しながらも、秀吉はあたふたと件の箱を差し出した。
「これ…なのですが…御館様、あのぅ…これには少々問題がありまして…」
秀吉は言葉に詰まりながらも、早速に箱に手を掛けようとする信長を押し止める。
「問題だと?どういう意味だ?」
「祝いの品として相応しいものとは思えません。利休のやつ、何を考えているのか…そもそも、あいつが祝いの品を送って来ること自体、胡散臭いわけで…」
ぶつぶつと文句を言い出すと止まらない秀吉を、信長は呆れたように見遣る。
「相応しいかどうかは俺が決める。彼奴が胡散臭いのは今に始まったことではないしな。面白ければそれで良いわ」
「そうは言われましても…」
面白いかどうかは御館様次第だとしても、秀吉にはチラリと見た限りだが利休の贈り物はどうにも無礼なものに思えたのだ。
それというのも………