第38章 利休の匣〜2026信長誕生祭〜
「ったく…利休のやつ、何を考えてんだ」
箱を抱えて廊下を歩きながら、秀吉はぶつぶつと呟きを溢す。
「ふざけた野郎だとは思っていたが、いきなりこんな物を送り付けてくるとは…御館様を何だと思ってるんだ、全くこんなもの…」
歩きながらチラリと箱の中身を見て、秀吉は慌てて蓋を乱雑に閉じる。
「こんなものを御館様のお目に入れては…」
「何だ、秀吉。俺に何か用か?」
「うおっ!お、御館様っ」
いきなり背後から呼びかけられて、驚きのあまり持っていた箱を落としそうになる。その場でたたらを踏みながら振り向くと、信長が腕組みしながら立っていた。
「……それは何だ?」
慌てて隠そうとするが、目敏い信長はしっかりと箱に視線を止めている。そもそも大きな箱なので、隠すのには無理があった。
「これはその……」
「祝いの品か?誰からの物だ?」
「あ、いや、その…」
秀吉のはっきりしない態度に、気短な信長は苛立ったように眉を顰める。
「秀吉、答えよ」
「はっ!これはその…利休からの品です」
「……ほぅ、利休、とな。それは珍しい。中を見せてみよ」
「い、いえ、ここではちょっと…」
(好奇心旺盛な御館様のことだ、そうくるとは思っていたが…これはこんな廊下の真ん中で見せられる代物じゃない。しかし、こうなるともう隠せないか…)
「……検分の後、天主へお持ち致します」
「何だ?随分と勿体ぶるではないか」
明らかに不満そうな信長に怯みながらも、ここは引き下がるわけにはいかなかった。
「御館様の御為でございますれば」
「ふん、まぁ、よい。焦らされれば、その分心地良くなるのは世の道理というもの。楽しみは後に取っておこう」
そう言うと、信長はあっさりとその場を後にする。
残された秀吉は何とも情けない顔で、去って行く信長の背を見送った。
(これは…御館様の期待値が無駄に上がっちまったんじゃないか?どうするんだ、これ…)
秀吉は忌々しげに箱を睨んでから、大きく溜め息を吐いた。