第38章 利休の匣〜2026信長誕生祭〜
箱の中を覗き込んだ秀吉は、一瞬息を呑み、すぐさま勢いよく蓋を閉めた。
その勢いに驚いて、朱里はぱちぱちと目を瞬かせる。
「えっ…な、何?どうしたの、秀吉さん?」
「……何でもない」
「何でもないって…何が入ってたの?」
「お前は見なくていい」
「え、でも中身を確認しないと」
「いや、これは検分しなくていい。俺が御館様に後で直接お届けする」
そう言うと、秀吉は箱を持ち上げてそそくさと出て行こうとする。
「ええっ…ちょっと待って、それ…」
「気にするな。続けててくれ」
「そ、そんな…」
秀吉はそれ以上は聞いてくれるなとでも言うように背を向けて出て行ってしまった。一人残された朱里は呆気に取られたように言葉を失う。
(一体何なの??)
秀吉らしくない慌て振りに、一体何が起こったのか訳が分からなかった。
天下人たる信長への祝いの品。
毎年、日ノ本各地から贅を尽くした品が届く。異国の物に高い関心を持つ信長への贈り物は、南蛮の珍しい物であることも多い。
贈り物とはいえ、信長へすぐに献上されるわけではない。危険な物ではないか、秀吉が一つ一つ検分して目録を作ってから信長へ披露されるのだが、朱里も毎年その手伝いをしていて、これまでにこのようなことはなかった。
(余程おかしな物が入っていたとか…いや、でも畏れ多くも信長様にそんなおかしな物を贈る人なんていないよね…というか、利休様ってどんな方?秀吉さんの、あの微妙な態度…)
あからさまに不審過ぎた秀吉の言動に、もやもやが募る。
こうなると箱の中身が気になって仕方がないが、秀吉が見せてくれるはずもなく確かめる術はなかった。