第9章 いつの間にか/沖田(銀魂)
気付いたときには体を包む温もりと、いましがた悪態をついたばかりの人の声が耳元に。
何が起きたのかが分からず、理解したのは二、三秒呆けた後で。
沖田さんに落とし穴から助けられ、あまつさえ抱きかかえられているんだ、とそう思うと同時に私は馬鹿正直に沖田さんに言葉を返していた。
「だから、沖田さんが死ねと」
「そうかィ、ななしさんはそんなにこの落とし穴が恋しいんですか。とんだ変わり者ですねィ」
「ちょまままま!嘘!嘘だから!また穴に落とそうとしないで!!」
せっかく抜け出した落とし穴にリターンなんて御免被る!
そんなわけで落とされないように必死になって沖田さんに抱き着いていた。
勿論無意識だった。
沖田さんにも強く抱き返されるまでは。
それに気付いて意識した途端、落とし穴に落とされる!という恐怖からくるドキドキが別のものへと変わっていった。
いったいなんだってんだ!とまともに何も喋ることが出来ないほど狼狽している私の耳元で、沖田さんは小さく息をもらしあっけらかんと呟いた。
「あ~あ、これで俺たち恋人になっちまいやしたねェ」
「は?」
思いもよらない、というかできるはずのない言葉に私は眉を寄せる。
恋人?何が?
沖田さん頭大丈夫?
「だってさっきななしさん言ってやしたでしょう?「それなりの仲に助ける義理がないんなら、恋人とかだったら助けたのかな」って」
相変わらずドキドキしながらも沖田さんの頭の調子を心配する私にそう続ける沖田さんの言葉に私は更に眉を寄せていった。
「え、いや、確かに言ったけどなんでそれ知ってるんですか沖田さん」
「そりゃあずっとここにいたからに決まってまさァ」
「はあ!?ずっと!?足音遠ざかっていってましたよね!?」
「そこは技術の見せ所ですぜ」
「……つまり、離れたフリをしていたってこと?いや、まあそれはいいです。それより、恋人ってなんなんですか!」
私の質問に呆れたような沖田さんの声が返ってくる。
「だからななしさんが言った言葉から考えれば、「助ける義理のないそれなりの仲」から変わったってことでしょう。助けちまったんだから」