第5章 幸せでいてくれるのなら、後悔、など/イグニス(ウィルオ)
「お前は、後悔をしているんじゃないか?」
「……え?」
ああ、やはり。彼は酷く心配性だ。必要のない心配すらしてくれる、馬鹿な人。
後悔と言う言葉を口にした彼の方こそ、後悔に瞳を揺らして。
「解放を行なったせいで、お前の友は皆精霊に戻ってしまった。そして、お前は二度とその存在すら感じられなくなってしまった」
「イグニス……」
「お前が大事にしていたエミリーも、だ。……皆が消えていく時に、お前は笑顔でいた。しかし、私にはそれが悲しみや寂しさを叫んでいるようにも見えた。離れたくないと、寂しいと、そう見えた」
「イグニス」
「私は、分からないのだ。お前の大事な友を失わせてまで、お前を酷く悲しませてまで、解放を行なって良かったのかと……」
「イグニス!」
彼を制止する私の大きな声に驚いたようにびくりと震えた肩に私は手を添える。
「イグニス、聞いて」
不安と悲しみ、困惑、心配。様々な感情を抱えた瞳をしっかり捉えて、幼子に対してそうするようにゆっくりと言葉をつむぐ。
「私は、後悔してない。後悔なんてするはずがないわ」
愛しい人。そんな瞳もやはり愛しい。
「私はね、イグニス。貴方が自由に幸せになって欲しいと、そう思っていたの。みんなには本当に失礼な話だけど、私は貴方が使命という鎖から解き放たれるのなら、それでよかった」
けれど私が望んでいるのは、そんな悲しいものじゃない。
「……貴方が幸せだと、そう思ってくれるのなら、私は後悔なんてしない。私は貴方が大好きだから」
「ななし……」
思わずあふれた涙を拭うのも忘れ、私は彼に、イグニスにほほ笑みかけた。
ぽたりと、落ちた雫が彼の手の甲をすべる。
もう手袋なんて必要としない、私と同じ「もの」。
何故これを後悔しろと言うのか。
私は毎日幸せで幸せで仕方がない。愛しい彼とともに過ごしていけるのだから……。