第5章 幸せでいてくれるのなら、後悔、など/イグニス(ウィルオ)
「……すま、ない。お前を泣かせるつもりではなかったのだが……。」
「謝らないで。私はそんな言葉を聞きたいわけじゃないわ」
「っ……」
彼の瞳は不安げだった。それでも先程までの悲しみや心配は感じられない。
笑って。そう私が言えばぎこちなくだけれど笑ってくれる。そんな彼が大好き。
「お前が、お前がいてくれるだけで……、」
彼は改めて確認でもするように。静かに瞳を伏せる。
「生きて、いてくれているだけで。存在していてくれているだけで、私は……、私は幸福に満ち足りる」
再び開かれた瞳には不安などなくなっていた。その代わり、熱っぽくそしてとても愛おしげにその瞳は私を映していた。
「ななし、お前が側に居続けてくれている限り私の幸せは尽きない」
そう言って彼は私を抱き寄せる。
愛しい人の腕の中はとても温かく心地良かった。
擦り寄るように彼の胸に顔をうずめれば痛くない程度にけれど強く強く抱きしめられる。幸せだから、と彼が囁いた。
……私も、尽きるはずがない。
私の幸せは、彼の幸せだから。
彼が幸せだと思い続けてくれるのならば、私の幸せは永遠ということ。
愛しい人、どうかいつまでも幸せであってください。
見上げた瞳に愛しげに見つめられ、私は微笑みを返す。
「愛しているよ、ななし」
私も愛してる。
そう告げようとした言葉は、唇ごと全て彼にのまれていった。
幸せでいてくれるのなら、後悔、など
「本当は少しだけね、惜しいとも思ったの」
「……え」
「だって、彼らは貴方の友達でもあるんですもの。彼らがいなくなって貴方も寂しいでしょう?」
「……少し、な。だが私はお前さえいてくれればいいから」
「……ありがとう」