第4章 願わくばその瞳と永訣ならんことを/レフィ(ルミナス3)
「レフィ、さん……」
「なんだ、ななし」
私が名前を呼べば、彼は私の名前を呼び返し応えてくれる。それがどうして、こんなにも嬉しいと感じてしまうのだろう。
気づいてしまったからだろうか。知ってしまったからだろうか。いずれは、彼が私の名も呼べなくなるのかもしれないと、そんな悪夢があることを。
「お前さ」
「はい、なんでしょう?」
「なんであんなことを?」
唐突にレフィさんが不明瞭な質問をしてきた。分かっていなくもないけど、「あんなこと、とは?」としらばっくれてみる。
「聞いてない、なんて。別に、絶対に誰にも口外しないとか言うだけでもよかったのに」
レフィさんの言うことは最もだ。きっとそう言ったとしても、レフィさんは私のことを信用してくれてたんだろう。
でも。
「だって、聞いてないんです」
彼が誰にも知られたくないのだと、グレン先輩との会話から聞こえてきた。それは心配かけたくないからとかそんな限りなくレフィさんの優しさからくるものであって。
「聞いてないから、知らないんです」
その優しさを突っぱねて、どうして彼を心配できる権利があるというのか。
私が彼に気をまわせばまわすほど、それが彼への負担になることなど明らかだ。
「私は、何も知らないんです」
だから私は知らぬ存ぜぬでいるべきなんだと決心した。
そうしなければならない。……そう、したかった。のに。
「いいから。……もう、いいから」
おもむろに私の頭へと置かれたレフィさんの手が、全て分かってると言いたげな優しい微笑みが、諭すようなその言葉が。あたたかくてぼろりと涙が溢れる。
ああ、だめだ。だめだ。
ここで甘えてしまったら、許されてしまったら、彼への負担が増えるだけだ。
笑わなきゃ、「何が?」と言って笑わなきゃ。そして彼は何でもないって言って終わるんだ。そうしてくれるんだ。だから
「ななし……」
だから、そんな優しい声で私の名前を呼ばないで。
「レ、フィさ」
止めて欲しいとせめてもの抵抗で私は首を横に振る。けれどそんなものが何一つとして効き目を果たさない。レフィさんは再び優しく私の名前を呼ぶのだ。
「ななし」
と。
「っ……!」
もはや瓦解した決心にはそれだけで十分だった。