第6章 私が
「…ごめんイレイザー。取り乱した。今着替えるから、もう行って」
「…わかった」
もう何も信用したくない。絶望っていう文字しか見えなくて。無意識の内に三つ編みハーフアップをこなして。本を読む気にもなれなくて、シャーロック・ホームズの本を勉強机に置いたまま家を出た
「…なんだ。何か用か」
「…話し、かけないでよ…轟…」
もう焦凍と呼ぶことも許されない。なのにどうして話しかけてくるの。私はその空気に耐えきれず走り出した。呼び止められた気もしたが、ただ逃げるように走った。どうして彼は、心の傷を抉ってくるんだろう。冷たいくらいなら放っておいてよ
「…ちゃん、奏ちゃん!」
「…何」
「ぼーっとしとったよ、何かあったん?」
目の前にいたのは麗日だ。私はかぶりを振ると、冷たくこう言った
「…軽々しく名前で呼ばないで。どういうつもりでかは知らないけど、もう関わってこないで」
裏切られるくらいなら…裏切った方がよかった。
「なんでそんなこと言うん?友達やろ?」
「…違う。友達なんかじゃない。ただのクラスメイトで、関係ないでしょ。わざわざ関わらないで」
どうせ裏切るんでしょ?焦凍みたいに冷たく離すんでしょ?わかってる。だって、好きって言ってくれた焦凍がそうだったもの
「なぁ、なんか合ったん?話なら聞くで?」
「…麗日、そのまま後ろに5歩下がれ」
「え?うん」
と5歩下がったのを確認すると、ギュンッと方向転換し走り出す。扉でドン、と誰かにぶつかる
「危ねえ…ってなんだ古率か」
彼の声は、冷たい気がした
「…ごめん、轟」
と小さく告げ、焦凍を避けると走った。なんでこんなことになってるの。男に裏切られるなんて何時も通りなのに。どうしてこんなに焦凍だけショックが大きいの?
自問しても返ってこない答えに、寂しさしか覚えなかった。