第5章 奏でる音(鳳)
「本当にいいの?」
鳳くんが最後の確認を取る。私はまた頷いた。
なぜか鳳くんの力になりたいと思ったのだ。
「分かった、連絡しておくよ。これ楽譜だけど無理はしないで。」
「うん、ありがとう。」
「お礼を言うのは俺の方だよ。本当にありがとう。」
それから3日間、放課後には学校の閉門時間まで音楽室にこもってピアノを弾き続けた。残りの2日は鳳くんと連弾を合わせて、最後の仕上げとした。
次の日、コンクール会場で自分たちの順番を待つ。急な部門変更にも関わらず、授賞の常連だからと特別に配慮してもらえたのだ。
だけど鳳くんの授賞がかかっていると考えるとあのときあんな軽い気持ちで連弾を提案したことを後悔した。
自分もコンクールには数えきれないくらい参加しているはずなのに今日は緊張のあまり震えが止まらなかった。
「古村さん、大丈夫。」
そんな私に気づいてか鳳くんが私の手を握ってくれた。
不思議と震えも治まって、二人でピアノの前に座る。
鳳くんの合図で弾き始める。なるべく鳳くんの音を目立たせるように、支える形で鍵盤を押していく。
あっという間に2曲弾き終わったが,弾いている間のことは全く覚えていなかった。
客席からの拍手に間違いはしなかったんだとあとから思った。
「古村さん、すごく弾きやすかった。」
「私もすごく楽しかったよ。」
全部門が終わり、結果の発表となった。
「連弾部門、銅・・中郡・桜田ペア。」
「銀・・・・東城・柏木ペア。」
「金・・・・谷亀・成実ペア。」
急造ペアだ。あまり期待はしていなかったが授賞がなかったとなると鳳くんの評価が下がることになる。
「今回は特別優秀賞がありましたので、発表いたします。鳳・古村ペア。」
「「!?」」
「えっ!?私たち?うそ。」
「うそじゃないみたいだ、行こう。」
鳳くんが手を差し出し、私はその手をとって、二人で壇上に上がった。
授賞式が終わって会場の外に出た。
「私まだ信じられない。」
「俺もだよ。まさか、昨日今日で組んだペアで賞がとれるとは。」
「私も・・たまたまだったのかな?」
「いや、相性が良かったからかもね。また一緒に弾きたいな。」
「喜んで。」
今日も放課後の音楽室で二人の弾くピアノの音が二人を包んでいる。
fin