第5章 奏でる音(鳳)
私は放課後毎日のようにピアノを弾くために音楽室に通っている。今日もまた音楽室に行く。
(日直で遅くなっちゃった。)
少し急ぎ足で音楽室まで行くと、中からピアノの音が聞こえてきた。
(あれ?誰かいる。この曲・・・)
音楽室のドアを少し開けてみる。ピアノを弾いていたのは同じクラスの鳳くんだった。
「あっ、古村さん。」
「ごめんね邪魔しちゃった?」
鳳くんとは同じクラスという前に小さいころから同じピアノのコンクールに出たりしている。
「セレナーデ?私もその曲好きでよく弾くよ。」
「今度のコンクールで弾くんだけど上手くいかなくて・・・そうだ!聴いてアドバイスをくれないかな?」
「私でよければ。」
鳳くんがピアノを弾き始める。心地よい音色が私を包んだ。
「ん~・・特に言うことはないと思うんだけど、すごく良かったよ?」
「古村さんが聞いてたからかな。」
「えっ!?」
「聞いてくれる人がいると、弾けたりするよね。」
「あぁ、そういうことか。」
ちょっと勘違いするところだった。鳳くんってたまにこういうこと平気で言う気がする。
コンクールで弾くもう一曲も聴いたが鳳くんらしさが出ていると思った。
「今度は、古村さんが弾いてくれる?」
「私?」
「うん、ピアノを弾きに来たんでしょう?なんか弾いて欲しいな。」
鳳くんのリクエストで私がピアノを弾くことになった。
「本当にピアノが好きなんだね。音に乗って伝わってくるよ。」
「ふふ、ありがとう。」
ピアノのコンクールが5日前に迫ったある日、登校してきた鳳くんの左手には包帯が巻かれていた。
「鳳くん!?その手・・・」
「これ?・・・練習中に痛めちゃって。」
「コンクールは・・?」
「残念だけど・・ね。」
私が知らないだけできっとたくさん練習したと思うのに、コンクールに出れないのはあんまりだと思う。
そんな私の中に一つ考えが浮かんだ。
「ねぇ・・もしよかったらなんだけど、連弾とかは考えられない?」
「連弾?・・・もしかして古村さんと?」
コクンと頷くと鳳くんは少し考えて、また口を開いた。
「セレナーデはいいとして他の曲はどうするの?」
「3日で覚えるよ。今までに弾いたことはあるから、あとは暗譜するだけだし。」