第3章 きっかけの傘(切原)
梅雨も終わる頃、朝は晴れていたのに昼から急に雨が降りだした。
(あっ、やっぱり降ってきた。傘持ってきといてよかった。)
今はテスト期間中で部活もない。しかし委員会の仕事で少し学校に残っていた。
そろそろ帰ろうと靴に履き替え昇降口から出ると同じクラスの切原くんが立っていた。
「あっ、切原くん。」
「古村?なんでいんの。」
「委員会で遅くなっちゃって。傘忘れたの?入ってく?」
「マジ!?助かる。こんな時間だと誰もいなくてよ。」
傘を広げると隣に切原くんが入ってきた。でも彼のほうが身長が高いので必然的に腕を伸ばすことになった。
「わりぃ、腕キツいよな。俺が持つわ。」
「ありがと。ねぇ、去年の今頃おんなじようなことがあったの覚えてる?」
~1年前~
「やば、雨だ。傘持ってきてないよ・・。」
まだ入学したてで友達も少なかった頃。天気予報を見忘れて、傘もなく昇降口で一人で立っていた。
「お前、傘忘れたのか。これ貸してやるよ。」
同級生だろう、真新しい制服に身を包んだ男の子が自分の傘を使えと私の手に握らせた。
「えっでも、あなたは?」
「俺は、部活の先輩に入れてもらうからいいよ。」
そういうと雨の中テニスコートの方へと走って行ってしまった。
「名前聞きそびれちゃった。」
次の日1年生の教室を順番に回り彼を探した。自分が1組なので隣のクラスから見て回る。
(いた!!てか隣のクラスだったんだ。)
彼を見つけることはできたが話しかけることができない。そのとき彼と目があい、こっちへ来てくれた。
「お前、昨日の。」
「私、古村まきです。昨日はありがとう。」
「どういたしまして。俺は切原赤也ってんだ。」
切原くんはそう言ってニカッと笑った。そのとき私は恋に落ちたのだ。
2年生になって同じクラスになったのは奇跡だと思ってた。
でも一緒に帰るというさらなる奇跡にこれからを期待するなと言われるほうが無理だ。
「お前よく覚えてんな・・・。」
少し恥ずかしそうに切原くんが顔を反らした。
反応からしてあのときのことを覚えているのだろう。
「俺も覚えてるぜ。初めてお前を見たときからずっと気になってたから。」
「っ!!?」
思わぬ大収穫。
神様これって期待してもいいですか?
fin