第26章 翡翠の誘惑
「そうだったのかよ。いいな~!」
「いいでしょ!」
「おごり?」
「そこ?」
ふふと笑って、返答する。
「一杯目は自分で買ったんだけど、二杯目は団長のおごり」
「ちぇっ、俺も起きてりゃ良かった…」
無念そうに舌打ちをする。
「あはっ、私がおごってあげようか?」
「おっ、ラッキー!」
「じゃあ、あとでね」
「サンキュー!」
二人は笑い合って、しばらくのあいだはとりとめのない話で盛り上がった。主な話題はバルネフェルト家が想像を絶する大富豪だということ。
だが、それもいつか尽きる。オルオが話題を変えてきた。
「なぁ、マヤ」
「ん?」
「昨日…、あの馬鹿でかいベッドでペトラと一緒に寝たんだろ?」
「うん」
「あいつ、大丈夫だったか?」
「うん。私もあんなことがあったし、ずっとペトラの様子は気にしてたけど、大丈夫だったよ」
「それならいいんだけどよ、ちょっと気になって。ペトラはガキのころから、怖いことがあったりしたら俺の布団に潜りこんできてたから」
オルオが遠い昔を懐かしむ目をする。
「……俺の布団?」
よく考えたら結構な問題発言である気がして、マヤは怪訝な声を出した。
「よく泊まりに来てたんだよ、ペトラは。俺… 六人兄弟なんだけど、あいつは一人っ子で、親同士も仲いいしな、それで」
「あっ、うん。ペトラから聞いてる。すごいね、六人って」
「まぁな。それでよ、学校に上がる前くらいは怖がったら俺の布団に入ってきてよ…」
当時を思い出したのか、オルオの顔が赤い。
「怖がるって?」
「うーん、雷とか? 怪談を聞いたあととか?」
「あぁ…、なるほど」
「でよ、学校に行くようになって気づいたら、俺じゃなくてオリーの布団に潜りこむようになったんだ。あっ、オリーって妹」
「うんうん、知ってる。オリーの髪をよく結ったって。本当の妹みたいだって言ってたよ」
「そうか!」
ペトラがオリーを本当の妹みたいだと言っていると知り、オルオは嬉しそうだ。