第31章 身は限りあり、恋は尽きせず
「そうだね。また来てよ。お父さんにも会ってほしいし」
「わかった。クロルバにも遊びにきてね」
「もちろん! これから何度でも泊まり合いっこしよう」
「うん!」
マヤとペトラは、この先何度でも訪れる幸せの共有を想像して、夢見心地だ。
その心地良さのまま優しい睡魔が降ってきて、マヤはペトラにささやいた。
「おやすみ…」
「マヤ、まだ寝ないで」
………!
いつもは率先して寝てしまうペトラが寝ないでと言うものだから、マヤは驚いてしまって薄暗い部屋の中で目を見開いた。
「やっと話せる…!」
「……何を?」
「実はさ…、ユトピアで…」
ペトラはユトピア区の駐屯兵団兵舎の便所での出来事を話した。
「……そんなことがあったんだ」
「そう。もうマヤに話したくて仕方がなかったんだけど、あの夜マヤは兵長とデートだったんでしょ?」
「デートだなんて!」
マヤは顔を赤くして慌てている。
「食堂に兵長が迎えにきてくれて、口直しだって静かなお店でお酒を飲んだだけよ」
「口直し?」
「うん。駐屯兵団の隊長さんと飲んで疲れたみたい」
「兵長って愚痴を言うんだ」
「言わないわよ。ただ “口直しするからつきあえ” って連れていかれただけ。最初は眉間に皺を寄せていたけど、ホテルの部屋に帰るころには機嫌が良さそうだった」
「へぇ…」
駐屯兵団のシムズ隊長とのサシ飲みに疲れ果てたリヴァイが、マヤを連れ出して飲み直して次第に機嫌を良くしていった様子がペトラには手に取るようにわかって、にやりと笑った。
「……まぁそういう訳でマヤが兵長と仲良く飲んでるあいだに、私はあの女子たちと戦ってたって訳よ」
「戦ってたって…」
「戦いよ、あれは! もう腹が立って腹が立って…! だからすぐにマヤに話したかったのに、マヤは兵長とどっか行っていないし、その後もずっとゆっくり話すチャンスがないし、ストレスマックスだった!」
「そっか…、ごめんね。もう大丈夫?」
「うん。やっと話せてちょっとスッキリ」
ペトラは布団から両腕を出して、伸びをしてみせた。
「でも駐屯兵の彼女たちも、そんな言い方しなくてもね…。私がそこにいてもペトラと同じように怒っていたわ」