第26章 翡翠の誘惑
「寝よっか」
「そうだね。今なら、楽しい夢を見られそう!」
「兵長との夢?」
「違うよ! ペトラと踊ってる夢!」
軽く頬をふくらませて、マヤは布団に入った。
「それいいね! じゃあ私も同じ夢!」
ペトラがマヤのすぐ横で寝る。
「おやすみ!」
「おやすみ、ペトラ」
大きなエクストラキングサイズのベッドの中央で向き合って眠る二人の息遣いは、すぐにゆっくりと規則正しいものになる。身体の力がすうっと抜けていけば、そのやわらかなベッドに深く沈みこんでいった。
ボーーーッ! ボーーーッ!
時は正午少し前。連絡船の午前の最終便が、張りのある汽笛の音を響かせてゆっくりと出港した。
甲板から調査兵団の五人は、船着場に見送りにきた人々を見下ろしている。
そこにレイの姿はない。
代わりに物腰の落ち着いた年配の執事長、セバスチャンが白いハンカチーフを優雅に振って見送ってくれていた。
「レイモンド卿は見送りに来なかったな」
オルオがつぶやいた。
「朝から事件のことで憲兵団に呼ばれたからね…。とっとと片づけて駆けつけるって言ってたけど間に合わなかったみたいね…。最後にもう一度、あの超絶イケメンを拝みたかったんだけど!」
「顔のいい男は、カインで懲りたんじゃないのかよ!」
「馬鹿ね! カインは確かに顔がちょびっと良かったけど性格がパパ野郎だったじゃん。レイさんは顔がめっちゃかっこいいうえに性格だって普通にいいんだから全く問題ないの!」
「けっ、そうかよ! 勝手にしろ。なんかあっても、もう助けないからな!」
「勝手にします~!」
オルオに対してべーっと舌を出したペトラ。それを見て、ふん! とそっぽを向くオルオ。
「お前ら、くだらねぇ言い争いはそこまでだ。とっとと船室に入れ」
リヴァイの命令に、オルオとペトラ… そして二人のやり取りをにこにこしながら眺めていたマヤは声を揃えた。
「「「了解です」」」