第26章 翡翠の誘惑
「そんな照れなくてもいいから~!」
「そうじゃなくって、本当に違うの! 団長もいたし、普通に気をつけろって言われただけなの!」
泣きそうな顔をして必死になって否定してくるマヤを見ていたら、ペトラもこれ以上からかっては駄目かなと思う。
「わかってるよ。団長も同席してたなら、そういう甘いムードのものではないよね」
「そうなの。それに兵長と二人のときも別に甘くないし…」
「それはどうだか」
「本当だって…!」
「まぁ、これからだもんね。また二人で出かけて、ちょっとずつ距離を縮めなよ!」
ばんっとマヤの肩を叩く。
「うん…」
そんなにうまくいくのかな? と肩の痛みとともに、切なく胸もちくりと疼いた。
そんなマヤの胸の内など知らずに、ペトラは明るい声で話題を変えた。
「レイさんさ、舞踏会に招待してくれると思う?」
「ん~、どうだろうね。社交辞令を言うタイプには見えないから、本当に呼んでくれる気はするけど…」
「呼ばれたら行くよね?」
「団長命令なら…?」
「何よ、そのテンション。レイさんが誘ってくれたときもそうだったけど、マヤは舞踏会に興味ないの?」
不服そうにペトラは口を尖らせた。
「う~ん…。そんなに楽しいものでもなかったから…」
「それは今日は普通じゃなかったからだよ。レイさんの舞踏会はきっと、さっきのサンドイッチやお風呂のようにゴージャスで楽しいって!」
キラキラと瞳を輝かせて語るペトラを見ていると、こちらまで楽しくなってくる。
「……不思議だね。ペトラが言うと、そんな気がしてくるよ!」
「“そんな気” じゃなくって絶対そうだから! なんせ私はレイさんに、マヤを何がなんでも連れていく約束をしてるんだからね。どうせ一緒に行くんなら、楽しくないと!」
「そうだね、わかった。もし招待されたら、ちゃんと行く」
胸の前でぐっとこぶしを作ってうなずくマヤを、ペトラは笑った。
「あはは、ちゃんと行くって何よ~! 変なマヤ」
「あはっ」「あはは」
不思議なもので、声を出して笑うと気分もすっきりとしてくる。先ほど胸の奥でちくちくと疼いた想いも鎮まった。