第26章 翡翠の誘惑
「ふぅん…。それってさぁ、兵長の束縛だよね」
「束縛…?」
全く自身とリヴァイ兵長との関係に当てはまりそうにもない単語が、ペトラの口から飛び出して、マヤは間抜けな声を出した。
「そう。束縛」
「違うんじゃない? 大体、兵長が私を束縛する訳ないと思うけど…?」
マヤにとって “束縛” とは、恋愛小説で読んだ知識に基づいている。
すなわち、おつきあいしている男女または結婚している男女が、それぞれの相手の行動を細かくチェックしたり、予定を支配したり。こまめに連絡を入れるように強要したりすること。場合によっては髪型や化粧、服装にまで口を出す。
そして恋愛小説における束縛の最大の特徴は、恋人が異性と会ったり、笑ったり、会話したり、あげくの果てには目が合っただけでも怒る… といったものだ。
今回のリヴァイ兵長の場合は、当てはまらない。
……だって私と兵長は恋人じゃないもん!
「いやいや、何を寝ぼけてんの。寝ようとしてたのを無理やり起こしたから? もしかしてまだ夢の中? お~い!」
ふざけた調子でペトラがマヤの顔の前で手を振ってみせる。
「もう! ちゃんと起きてる!」
「じゃあ寝ぼけてるんじゃなくて、マジボケなんだ…」
あきれた様子で大げさに首を横に振る。
「ぼけてないよ。兵長とつきあってないんだから、束縛される訳ないでしょ!」
「そりゃ、正式につきあってるとかじゃないかもしれないけどさ…。デートはしたんだし、束縛されたって変じゃないんじゃないかな? だってそうじゃなかったら、なんで船で “男を信用するな” とか “気をつけろ” とかわざわざ言うのよ」
マヤは胸を張って堂々と答える。
「もちろん大事な部下だからよ。その証拠にそのときにね、団長にも “年頃の女の子は気をつけた方がいい” って忠告してもらったし、ペトラの指名の話になって、信用できないから気をつけないと駄目だって言ってたもん」
「あぁ…、団長もいたんだ。なんだ…、二人だけで手を握って見つめ合いながら “他の男を信用するな、俺だけを見てろ” って言われたのかと思ったわ」
「ちょっとペトラ! 色々違う! そんなこと全然言われてない! 手も握ってないから!」
脚色されたペトラの言葉に、マヤは顔を真っ赤にして否定した。