第17章 壁外調査
「大丈夫か?」
もっと何か、マヤを安心させられる良い言葉で伝えられたらいいのだが…。
エルヴィンみたいに弁が立たない自分が歯がゆい。
昔から言葉数が少ない、無愛想だ、いつも不機嫌で何を考えているかわからないなどと言われてきた。
別にそう言われてもかまわなかったし、これからも気にしないが… 今だけは。
今だけは恐怖で震える目の前のマヤを、俺の言葉で楽にしてやりたい。
だが何をどう言えばいいかわからない。
結局気の利いた言葉ひとつ言えずにただ、心に浮かぶ想いだけを形にしていくことしかできなかった。
「はい…」
俺の言葉に対してひとこと小さくうなずいたマヤは、おずおずと次の言葉をつづけた。
「ありがとうございました」
礼を言われるとは思っておらず、眉間に皺が寄る。
「あの…、助けて… いただいて…」
……助けるのは当たり前のことじゃねぇか。
「約束しただろ? 必ず俺が、お前を守ると」
「はい…」
マヤの返事が弱々しい。
俺のこの、必ず守ってやるという強い想いは伝わっていないのか。
……あぁ、そうか。
あのとき、あの月夜の図書室で、どうして守ってくれるのか? と問うマヤに対してこう答えた。
「大事な部下のひとりだからだ」
部下だから、兵士長として守ると。
確かにそれは当然の責務であり、これまでどの兵士に対しても実行してきたし、これからも誰一人失わぬよう全力を尽くすことに変わりはない。
マヤに対しても、その責務の一端であったはずなのに。
マヤが巨人に掴まれ食われそうになっているところを目撃したあの瞬間から、兵士長の責務だからという言葉は本当の気持ちをごまかすための言い訳だと思い知った。