第17章 壁外調査
祈るといっても、祈ったことがなければ何をどうすればいいかもわからない。
きっと心から、湧き上がる想いに素直に向き合うこと。聴こえてくる声に耳を傾けること。
それが俺の、祈りになる。
月を背にベッドに横たわるマヤに目をやれば、自然と想いはあふれてくる。心の声がうるさいくらいに響いてくる。
……マヤの笑った顔が、また見たい。
あの潤いに満ちた琥珀色の瞳が映す景色を知りたい。
あの声で “兵長” と…、たったひとこと… それだけでいい。ささやいてくれ。
アルテミスと一緒に思いきり駆けさせてやりたい。
マヤの淹れた紅茶の香りに包まれたい。
……まだまだ挙げればきりがねぇが、マヤへの想いで胸がいっぱいになる。
俺はこんなにも欲張りだと初めて知った。
マヤのすべてを、今までどおりにこの手に戻したい。
……頼む。目を覚ましてくれ…!
月に祈りが届くかどうかはわからないが、俺がそう強く心に念じたとき、マヤがかすかに動いた。
「……んん…」
吐息のような声が、聞き取れないほど小さいが確かに漏れた。
「マヤ!」
慌てて椅子に座り、マヤの様子を見る。
少し苦しそうに眉を寄せている。
思わず布団から出ていた左手を取った。両手で包むように握る。
「マヤ!」
届くと信じて、もう一度呼びかける。
「……ん…」
マヤの声は最初のものよりさらに小さくなり、寄せられていた眉根もゆっくりと元に戻り… そのうちまた、なんの変化もなくなった。
ただ静かに、そこに寝ている。
確かめれば呼吸はゆっくりだが規則正しくおこなわれていて。問題は何もないように見えるのに。
呼びかけても反応はなく、意識が戻ることはない。