第17章 壁外調査
マヤの顔に付着していた土は綺麗さっぱりなくなっていた。
ハンジとナナバに丁寧に拭いてもらったであろう白い顔は、すべすべとまるで風呂上りのように輝いている。少し悪い顔色もランプの金色の灯りに照らされて、ほとんどわからない。
抱きかかえて慌ただしく帰還してからやっと、こうしてゆっくりと二人だけの時間を迎えた。
今… 目の前に横たわるマヤは昏睡などしておらず、ただ眠っているだけのように見える。
……あいつらに綺麗に拭いてもらったんだな…。
もちろん掛け布団をはいで体を見るなんてことはしないが、きっと隅々までぴかぴかにしてもらったに違いない。
……良かったな。
慈しむような気持ちが生まれる。
優しくその想いを抱えたまま、しばらくじっとマヤの顔を見つめる。
起きる気配はない。
伏せられた長いまつ毛が頬に影を落としていた。何故かその美しい陰影から目を離せなかった。
刻々と時が経つにつれ、変化の見られないマヤの様子に心が焦る。そんな中で、まつ毛が落とす影だけが濃くなった気がして思わず窓を見上げた。
いつの間にか外の世界は、闇に支配されていた。
……もうすっかり夜じゃねぇか。
椅子から立ち上がって窓辺に。屋敷のほぼ真上に、月が出ていた。
昨夜に図書室の窓から眺めた月と同じで、丸くて大きくて青白くて。静かに揺らぐ、やわらかい光。
マヤはあのとき、祈るように月を見上げていた。
まぶたを閉じれば、マヤの姿が目に浮かぶ。月の光で淡く輝いていたまっすぐな長い髪、白い顔はますます透き通るように気高く美しく。