第17章 壁外調査
「いやぁぁぁ! 放して!!」
叫び暴れるマヤを気にすることもなく掴んだまま、ゆっくりと立ち上がった。
驚異の再生能力を備えた巨人は、1~2分もあれば傷を修復してしまう。巨人が上半身を回転させマヤを掴んだころには、アキレス腱の修復が完了したのだ。
巨人は顔の高さまでマヤを持ち上げた。
「ひぃ…!」
マヤの視界いっぱいに巨人の顔が広がる。虚ろな目、妙につるりとしていながら岩石のような鼻、半開きの口からは巨大な白い歯がのぞいている。
「ガウァウアァァァ!」
巨人が咆哮し、その大きな口がくわっと上下にひらいた。白い歯は異様に歯並びが良く、上の歯と下の歯の間をツーっとよだれが糸を引くようにつながっていた。
マヤはもう、悲鳴を上げなかった。
……あぁ… 私… ここで死ぬんだ…。
こうやって巨人に掴まれて食べられていく仲間を何人も見てきた。そのたびに、逃げて! 諦めないで! と叫び、なんとかして救おうと果敢に挑んだ。
だが巨人の臭い口に放りこまれる仲間の最期の顔は。
絶望と圧倒的な恐怖、怯えによる戦慄と混乱、そして… もはやこれまでと観念した弱々しい光に照らされていた。
「駄目よ! まだ戦える!」
燃える崇高な情熱。滾る想い。人類の明日と未来への希望。それらをすべて粉々に砕く無慈悲で無垢な巨人の虚ろな目は、何を見ているのか。
「諦めたらそこで終わりなのよ!」
……今やっと、理解できた。
そんな言葉は、なんの意味もない。
いくら声を枯らして鼓舞したところで、巨人の虚ろな目に囚われたならば。
巨人の喉の奥に放りこまれそうになっている今この瞬間には、すべて意味を成さない文字の羅列だ。
同じ状況にならないとわからないなんて…。
マヤはやがて来るであろう最期の瞬間から逃れるように、ぎゅっと目を閉じた。