第17章 壁外調査
武器や火薬、野戦糧食や缶詰などの保存食糧は通常、その兵站拠点にある堅牢な建物内に配備される。
皮肉な話ではあるが、徘徊する巨人のおかげで物資を強奪する人間はいない。だが悪天候には注意を払う必要があるのだ。
適切な建造物がない場合、簡易小屋を建てたりテントを張ることになる。
マヤのつぶやきに、ダニエルは律儀に相槌を打った。
「そうっすね」
その声に我に返ったマヤは、二人とともに農具小屋に入った。
そこにはハンジの説明どおりにたくさんの大小さまざまな桶が転がっていた。
馬の世話には桶は幾つあってもかまわない。
「十分な数の桶ね」
マヤはジョニーとダニエルの二人と満足そうにうなずき合い、朗報を持ってミケの待つ馬繋場へと急いだ。
そしてそこから桶を手に、井戸への地獄の往復が始まった。
「きつかったなぁ…」
その様子を思い返しながら、マヤは思わずつぶやいた。
水の運搬を何往復もして、その後馬たちの簡単な手入れをする。簡単といっても、確実に異変などがあったら発見しなければならないし、何しろ頭数が多い。
まさしく重労働だった。
だが世話を終え草を食む馬たちを眺めていると、疲れなど吹っ飛ぶ気がした。
今マヤの目の前にいるのは、エルヴィン団長の馬だ。
名はアポロン。筋骨隆々とした白馬の牡馬だ。雪のように白い毛並みが美しく、たてがみと尾の黒を際立たせている。
その毛色の白さが主である団長の清廉で高潔な性質を、揺れるたてがみと尾の黒さが人類へ心臓を捧げた気高き精神の強さを表しているようにマヤには思えて、思わず感嘆の声を漏らす。
「……本当に綺麗ね」