第16章 前夜は月夜の図書室で
そう言うなり握っていた両手を離し、マヤの両肩を掴んだ。
「い、いいだろ?」
掴まれた肩が痛い。はぁはぁと荒い息が顔にかかり気持ち悪い。
「嫌! やめて!」
身を離そうと両手で突っぱねるが、びくともしない。
「ザック! 放して!」
「はぁはぁ…、そ、そんなこと言わずに…」
両肩を掴んでいたザックの手がそのまま背中にすべってくる。
……やだ!
このまま抱きしめられると思い目をぎゅっとつぶった瞬間に、ゴン! どさっと鈍い音がした。
恐る恐る目を開けると、ザックが床に倒れている。
……え?
何が起こったのかわからずにマヤが目をぱちくりさせていると、ザックが頭を押さえながら起き上がった。
「あいたたた!」
よく見れば、ザックのそばには金色の立方体が転がっている。
……あれ、なんだろう?
マヤにはその立方体に見覚えがあった。しばらく考えていたが、すぐに何だったかを思い出した。
……真鍮のペーパーウェイトだわ!
「だ、誰だよ!?」
ザックが叫ぶと、部屋の隅の方から低い声がした。
「第三分隊所属、ザック・グレゴリー」
それと同時にソファの陰から人影が現れ、足音もなく近づいてくる。月の光がその顔を照らした途端にザックは今にも失禁しそうな声を出した。
「リ、リ、リ、リヴァイ兵長!」
窓辺に立ちすくむマヤと、泡を食った様子のザックの前に腕組みをして立っているのはリヴァイだった。
……リヴァイ兵長! どうしてここに?
突如現れたリヴァイの姿にマヤは混乱し、声を出すことすらできずに、ただその大きな琥珀色の瞳を見開いていた。