第16章 前夜は月夜の図書室で
「え? 手?」
「あ、明日死ぬかもしれないと思ったら… そのどうしても…」
もともと顔を赤くしていたが、今や耳まで真っ赤になってもじもじとしているザックに変な下心などなさそうだ。
……どうしよう…。どうしたらいいの…?
マヤは返答に困っていたが、ふと今日のエルドとの会話を思い出した。
そうだ、エルドさん… 握手するって…。こう言ってた。
……だから気持ちには応えてあげられなくても、少しでも明日の不安を減らしてあげたいし、俺の手でそれができるんだったらと思ってな…。
私の場合、ザックの不安を減らしてあげたいなんて大それたものじゃないけど、私だって壁外調査は不安なんだもの。一緒に頑張ろうって気持ちを共有できたら、明日への勇気につながれば…。
うん、そうよ。同期なんだもの。
マヤは心を決め、微笑んだ。
「……わかった。いいよ」
すっと差し出された華奢な右手をザックは信じられないといった様子で見ていたが、急にはっと我に返ると両手でぎゅっと握り返した。
「………!」
想像していたよりもザックの握る力が強くて、マヤの眉間に軽く皺が寄る。
十秒以上経ち、もう離してもいいだろうとマヤが右手を引っこめようとするが、がっちりと包みこまれてびくともしなかった。
そのうちザックの熱い手は汗ばんでくるし、握手したことによって今までで一番近い距離にあるザックの顔は、まるで首を絞められた人のように赤くなって鼻息も荒い。
「あの… ザック? もういい?」
なんだか少し怖くなって無理に振りほどこうとしたが、逆に骨がどうかなるのではないかという強い力で握ってくる。
「はぁはぁ…、な、何もしないから手だけじゃなく、だ、だ、抱いてもいいかな?」