第16章 前夜は月夜の図書室で
マリウスとショーンがそんな取り決めをしていたとは…。
知った事実に衝撃を受けたが、とにかくマリウスとはおつきあいはしていない。
「そういうことがあったかもしれないけど、別につきあってないから」
「そ、それは僕にとっては朗報だよ!」
ザックの声が弾んでいる。
「マリウスがあんなことになったあとで、それにつけ入るような真似はしたくなかったんだ。だ、だからあらためてマリウスは関係なしに、ぼ、僕とつきあってほしい…」
顔を赤くして声を震わすザックに申し訳ないとは思うが、今の今まで単なる同期としか考えたことのなかった相手とつきあうことはできない。
「ごめんなさい…」
「……や、やっぱりマリウスが忘れられない? いや違うか。も、も、もしかして別に好きなヤツでもいるのか?」
「そうじゃないけど…、つきあうとかそういうの考えたこともなかったし…」
「……わかった。きゅ、急に言われてもマヤも困るだろ。今日は僕の気持ちを知ってもらっただけでいいや」
「……うん」
「よ、呼び出して悪かったよ。じゃあ明日、いよいよだけどお互い頑張ろう」
「うん、そうね」
少し顔を引きつらせながら笑ったザックは、きびすを返して扉に向かう。
マヤが内心ほっとしたそのとき、ザックが立ち止まった。
「……や、やっぱり…」
「………?」
「……明日、死ぬかもしれないんだ。あ、あんなに優秀だったマリウスだって死んだんだ。そうだろ?」
扉の方を向いたままザックは肩を震わせている。
「……ザック?」
マヤのその声に弾かれたように振り返ったザックは、数歩で戻ってきて懇願した。
「マヤ、つきあえなくていいから、て、手を握ってもいいかな?」